無線マニアが考える海自哨戒機へのレーダー照射問題

世間では、海上自衛隊のP1対潜哨戒機と韓国海軍の問題が騒がれています。

無線マニアの立場から、この問題を考えてみたいと思います。

特に韓国が主張する「海自からの無線の呼びかけは雑音混じりでほとんど判読できなかった」件について考えます。

対潜哨戒機とは?

対潜哨戒機の活動は、潜水艦や不審船の監視活動を行うのが主な任務です。

以前は「対潜」哨戒機と呼ばれ、主な任務は潜水艦探索でしたが、最近発生している不審船事案などもあり、単に哨戒機と呼ぶようになっています。

特徴は海の監視は作戦行動範囲がとてつもなく広く、1回の飛行時間は10時間を超えがほとんどという点です。

海上自衛隊の対潜哨戒機の拠点は全国4カ所

海上自衛隊で対潜哨戒機が実戦配備されている基地は、青森県の八戸航空基地、神奈川県の厚木航空基地、鹿児島県の鹿屋航空基地、沖縄県の那覇航空基地の4ヶ所となっています。

この他、千葉県の下総航空基地に対潜哨戒機の教育部隊が配備されています。

八戸航空基地の守備範囲は北海道と北東北、厚木航空基地は本州全般、鹿屋航空基地は九州方面、那覇航空基地は沖縄方面を担当しています。

厚木基地を例にとれば日本海が守備範囲となりますので、その作戦は範囲の広さ、酢酸時間の長さは容易に想像できます。

P-3CからP-1へ転換中

長らく海上自衛隊の哨戒機はアメリカのロッキード社が製作したP-3Cという機種を使用していましたが、交信時期を迎え国産のP-1哨戒機へ随時更新されています。

アメリカ海軍も海上自衛隊と同様にP-3を使用し交信時期を迎えており、ボーイング737をベースとしたP-8を開発しています。

日本もP-8導入を検討していましたが「対潜ソナーを利用するためには、哨戒機は低空を低速で飛行する」という要件があり、B767ベースは旅客機ベースで低空・低速での飛行は得意でないので専用機の独自開発となりました。これがP-1です。

対潜哨戒機の無線機

さて、無線マニアとして一番の関心ごとである対潜哨戒機の無線機ですが、長時間、広範囲にわたって活動するために、通常の航空機の無線機に追加して特殊な装備となっています。

航空無線

世界的に軍事用の無線は民間機が使用しているVHFではなくUHFが使用されています。

各航空基地での航空管制にはUHFが使われており、もちろんP-3CやP-1にもUHFが搭載されています。

この他、状況によっては民間機と更新する必要も生じる可能性もありVHF無線機も搭載しています。

船舶用無線

哨戒する対象が潜水艦や不審船などの船舶ですから、船舶が日常的に使う「国際VHF」という無線機も搭載しています。

航空無線はAMと呼ばれる方式の無線ですが、国際VHFはFMという無線方式が使われています。

航空機でFM方式の無線機を搭載しているのは、警察やマスコミ以外ではかなり珍しいと言えます。

短波

短波は、中高年の人には短波放送としておなじみですね。

インターネットが普及する前は、海外からダイレクトに情報を得る手段といえば短波を使った通信でした。

短波は、比較的簡単な設備で海外などの遠距離と通信が可能ですが、季節や時間により通信できる距離に差があったり、伝送速度が極端に低いなどのデメリットもあります。

対潜哨戒機は広範囲に活動し基地から数百キロ以上離れるので、近距離通信しかできないVHFやUHFの無線では通信には不便なため、衛星通信が普及する前は、短波の無線機を搭載して長時間の作戦行動中の基地との通信に使用していました。

現在はほぼ全ての哨戒機に衛星通信が搭載されており、短波無線はバックアップや哨戒対象への呼びかけに使用するぐらいになっています。

衛星通信

現在の作戦行動中の連絡は、ほとんどが衛星通信です。

P-3Cの時は衛星通信は後付けでしたが、P-1は最初から衛星通信が搭載されておりシステムの中に組み込まれています。

海上自衛隊ではインマルサットなどとは異なる独自の衛星通信システムを構築し海上自衛隊の通信ネットワークの中に組み込んでおり、日本近海であれば哨戒機からダイレクトに所属基地や幕僚監部と通信が可能です。

以前はデータ伝送速度が遅くて実質音声でしか利用できませんでしたが、現在は改良されデータ通信も使えるようになっているようです。

現代の哨戒機の中身

上の写真は、P-8のセンターベデスタル付近にある無線機操作系パネルです。

以前導入直後のP-1の内部を見学させていただく機会があり、その後横田基地友好祭でP-8の内部も見学させていただく機会があり、双方の内部はかなり似通っているのでびっくりしました。

P-1は内部の写真を撮る機会がありませんでしたが、P-8はアメリカ軍らしく写真取り放題でした。

赤い枠で囲った部分が無線機の操作パネルです。

UHFやVHF、SATなどの文字が見られ、P-8もP-1も様々な形式の電波を扱えるようです。

キャビンには大型の画面が置かれた操作卓があり、アメリカ軍でもさすがにこれは電源がOFFになっていたのでどんな機能があるのかは詳細はわかりませんでしたが、この操作卓から無線を操作して不審船に呼びかけられると想像できます。

今回の無線での呼びかけについて考察

無線での呼びかけ

不審船等への呼びかけは、国際的な救難チャンネルを使います。

このチャンネルは、船舶用には短波とVHFにそれぞれ1チャンネルあり、航空機用にはVHFとUHFにそれぞれ1チャンネル存在します。

P1哨戒機に搭載されている無線機の性能等が公表されていませんが、通常の民間航空機に搭載されている通信機の出力は25W(ワット)程度なので、おそらくは同程度の出力があると推定されます。

25Wがどれくらいの強さかというと、一般に市販されているデジタル簡易無線の出力は5Wですからその5倍にもなります。

パトカーに積んでいる警察無線の無線機の出力は10Wですから、それよりも強い出力となります。

また、電波は高度が高ければ高いほど遠くに届くので、P-1から出される電波は、相当広範囲に届きます。

韓国戦ではノイズ混じりにしか聞こえなかった?

韓国海軍は、海上自衛隊からの呼びかけはノイズ混じりでよく聞き取れなかったと主張していますが、本当なのでしょうか。

もし、韓国側がP1の飛行が威圧的を感じたのであれば、相当近くを飛行していたと想定できます。

実際画面で見ても、電波的にはかなり近い距離を飛行していますので、韓国側に届く電波はかなり強かったはずです。

アマチュア無線の世界では、この程度の距離で25Wもの電波を出すと受信機を損傷させるかもしれないので、マナー違反とされます。

つまり、どちらかの無線機が壊れていない限り、雑音混じりで聞き取れないなんてあり得えません。

早期解決を

さて、本当に韓国側にはノイズ混じりで聞こえなかったのでしょうか?

無線マニア的には、日本側と韓国側が提示したビデオを見る限り、それはあり得ないと確信します。

では、あとはどんな要件があったのでしょう?

無線機の故障?海自の英語の発音が悪かった?

あとは政治がうまく解決し再発防止手段を講じててくれることを望みたいと思います。

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